もうそばにいるのはやめました。
「そういや寧音、こっちの言葉大丈夫なのか?」
「それはもうばっちり!」
言葉は問題ないけど……文化に慣れるのは時間が必要かもしれない。
さっきも街中で普通にほっぺにチューしてたし。
家は靴脱がなくていいし。
春なのに桜は咲いてないし。
これまで日本を出たことのないわたしには不慣れなことがたくさん。
「……あ、ソレが寧音の相棒?」
円の視線の先には、お母さんのバイオリンがあった。
相棒……か。
そうだね。その表現がぴったり。
「そう!お母さんから受け継いだ、わたしのだーいじな相棒だよ!このバイオリンと一緒に大学生活を楽しむんだ!!」
イギリスにある有名な音楽大学。
そこで来週から音楽やバイオリンについて学ぶ。
進路に迷っていたとき、穂乃花ちゃんのなにげない一言で道が拓けた気がした。
『寧音ちゃんはバイオリニストになるんだと思ってた』
お母さんと同じバイオリニスト。
今までそんなこと考えたことすらなくて。
あぁそういう選択もあるんだ、と霧が晴れたようだった。
そのことを円に電話して話したら、円も音大を考えていたことを明かした。
『でも次はどの大学にしようかで悩んでるんだよね。やるならレベル高いところがいいけど、大学の雰囲気も気になるし』
『ならいいとこあるけど』
『え!どこどこ!?』