もうそばにいるのはやめました。
不思議。
初めてここを訪れたときよりも緊張してる。
「……寧音?」
また、名前。
普段はあんまり呼ばないくせに。
今日はたくさん呼んでくれるんだね。
最後だから?
「……っ、ま、どか」
弱い声。
同居最終日に聞く声がこれじゃあ格好つかないね。
ぴんと背筋を正して、気を引き締める。
大丈夫。慣れてる。
お嬢さまだったとき、よくこうして強がってた。
「さっきは急に……ごめんね」
「い、いや……」
「今までありがとう」
今度はいい笑顔を作れたはず。
頬も口角も上がってるしカンペキでしょ?
だからどうか本心を見破らないで。
「同居も終わることだし、これからはもうそばにいるのはやめるね」
「……え?」
「円も世話焼かないでいいよ。ずっと迷惑かけてばっかりだったでしょ?ごめんね。明日から学校始まるけど、迷惑かけないように頑張るから!」
もう頼らない。
頼れない。
円の優しさが、苦しいの。
『まあでも……寂しくなったら、イタ電でもしてうぜぇくらいかまいに行ってやるよ』
せっかくめずらしく素直になってくれたのに、あれだけうなずいたのに拒んでごめん。
だって、振られてもそばにいていい理由なんか、知らない。
出会ったときから今までずっと“友だち”じゃなかった。
同居人で、クラスメイト。
苦手な男の子から、好きな人。