もうそばにいるのはやめました。
今さら「友だちとしてよろしく」ってお願いしてもわからないよ。
友だちの距離感ってなに?
好きな人から友だちに変えるにはどうしたらいいの?
そばにいるのをやめたら「好きだった」になる?
「じゃあ……また明日、学校でね」
わたしと円に”さよなら”はなかった。
朝も夜もそばにいた。
『おはよ、円』
『……はよ』
『バイト行ってきまーす!』
『いってら』
『ただいま』
『あっ、おかえり!晩ご飯できてるよ!』
『また焦がしたりしてねぇか?』
『今日は早く寝よっと。おやすみ〜』
『ああ、おやすみ』
”さよなら”がこんなに辛いものだなんて思わなかった。
円にこの家の鍵を返した瞬間、笑顔が崩れる。
返事を待たずに扉の向こう側に逃げた。
「寧音、お別れは済んだのかい?」
「うん……」
待っててくれた両親と並んで歩く。
マンションが遠のくたび、振り返りたくなる。
円が追いかけてくるわけじゃないんだけど。
未練がましいな、わたし。
「父さんと母さんな、あっちのホテルで働いてたんだぞ。母さんがレストランでピアノを弾いて、父さんが演奏やショーのプロデュースと下働きをしてたんだ」
「そこでたまたま担当の方が声をかけてくださってね、トントン拍子で話が進んで、日本にある系列のホテルでも演奏やそのプロデュースをさせてもらうことになったのよ」
「秋ごろには寧音を迎えに行きたいとは思っていたが……まさか本当にこんな早く帰ってこれるとはな。相松には感謝しかないよ」
「そうね……。あっちでも相松にはお世話になったわ。相松だけでなく息子さんにも…………寧音?」
「なあに、お母さん?」
「……どうして泣いてるの?」
泣いてる?
……あ、本当だ。
目頭に当てた指先が濡れてる。
どうりで視界がぼやけてるわけだ。
「寧音?」
「寧音ちゃん……寂しかったの?」
「っ、……う、ん。そうかも」
お母さんが背中をさすってくれても、涙腺はしばらくゆるんだままだった。
寂しかった。
すごく、寂しい。
それは、どうして?