もうそばにいるのはやめました。
灰色の目がわたしから真うしろへ移った。
つられてわたしも武田くんのうしろの席を見やる。
……え。
「円、ここなん?」
「あ、ああ……」
「前後じゃん!やったね!宿題うつしやすくなった~」
「おい。見せねぇからな」
「そう言っていっつも見せてくれるくせに~」
ななめうしろが、円……!?
円と目が合いそうになってすぐさま前を向いた。
そばにいるのやめたばっかりなのに。
神さまの意地悪。
この席じゃ嫌でも声が聞こえちゃう。
意識しちゃうよ。
「円の隣は……」
カタン、と。
椅子がずれる音がした。
あぁ、心臓に悪い。
「あたし、です」
「おぉ!斎藤さんかー!学級委員がそろったな」
ふと肩をトントンとつつかれた。
円のほうを見ないように反対向きで振り返る。
「前後同士よろしくね、寧音ちゃん」
「う、うん!よろしく、穂乃花ちゃん!」
穂乃花ちゃんは“ヤマトナデシコ”をそのまま表現したみたいなきれいな女の子。
ぱっつん前髪に、サラサラストレート。
胸元まであるミルクティー色の髪はつやつやでうらやましい。
夜空のような色のメガネフレームもかわいいし、似合ってる。
美人でおしとやかで
そのうえ円と学級委員をやってる。