もうそばにいるのはやめました。


……もしかして、円の忘れられない人って、穂乃花ちゃん?


ちがうクラスの子?

先生?



知らない子だったらいいな。


だって知ってる子ならヤキモチ妬くに決まってる。



勝手に嫉妬して、「好き」を消せない。



「つーか円と竜宝さん、なんか夏休み入る前と雰囲気ちがくね?」


「そういえばそうだね。2人って兄妹みたいに仲良かったのに……なにかあった?」



ギクリ、と肩が揺れて

ズキリ、と胸が痛んだ。



梅雨明けごろに一度、わたしと円が同居してるんじゃないかといううわさが広まったことがあったのを思い出した。


『一緒に同じマンションに入っていくの見たって人がいるんだけど』

『どうなの!?』

『付き合ってるの!?』


あのときはさんざん質問攻めされた。
全否定したけど。

今ならあの否定もウソにならないね。


『えー、ちがうの?』

『てっきり付き合ってると思ってた』

『2人仲いいもんね』


クラスメイトが不服そうにするくらい、わたしと円の距離は近くなっていたらしい。


それがうれしくて。



『寧音ちゃんは相松くんのこと好きじゃないの?』



当たりさわりない質問にドキッとした。


スキ。

恋愛感情の「好き」。



――きっと、あのとき、自覚したんだ。




「なんもねぇよ」



それだけ呟いた円が冷ややかに感じたのは気のせいじゃない。


告白して振られて、同居が終わった。

そう正直に答えられるわけがない。


……ない、のに


円の口から”なにもなかった”って言われたのが想像以上に辛かった。

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