もうそばにいるのはやめました。
*
あーあ、今日も円に挨拶できなかった。
今まで簡単だった「おはよう」も
一度しか交わしてない「またね」も。
”さよなら”した日から1週間も経つのに、目が合ったら逸らしちゃうし、円を避けちゃってる。
そばにいるのをやめるって、こういうことだった?
――ううん、ちがう。
近すぎた距離をちょっと遠くして、ただのクラスメイトになりたいだけ。
そうしなきゃ、円が『忘れられない人』と両思いになったとき困るでしょ……?
「……寧音ちゃん?」
「っ!」
「大丈夫?」
われに返ってようやく教室に人が増えたことを認識した。
放課後の視聴覚室。
ここで文化祭実行委員の最初の集まりが行われる。
「だ、大丈夫大丈夫!ちょっとぼーっとしてた」
えへへと薄笑いする。
隣に座ってる穂乃花の澄んだ茶色い目は、まだ真っ直ぐわたしを捕まえてる。
「なにか悩みごとでもあるの?」
「え……?」
「あたしでよければ相談に乗るよ?」
穂乃花ちゃん、優しいなぁ。
誰かに話してみたらわかるのかな。
正しい答えが。
「……あ、あのさ……穂乃花ちゃんは好きだった人と友だちになれる?」
クラスメイトも友だちもどうすればなれるんだろう。
今でもこんなに好きなのに。