もうそばにいるのはやめました。






あーあ、今日も円に挨拶できなかった。


今まで簡単だった「おはよう」も

一度しか交わしてない「またね」も。



”さよなら”した日から1週間も経つのに、目が合ったら逸らしちゃうし、円を避けちゃってる。



そばにいるのをやめるって、こういうことだった?

――ううん、ちがう。



近すぎた距離をちょっと遠くして、ただのクラスメイトになりたいだけ。


そうしなきゃ、円が『忘れられない人』と両思いになったとき困るでしょ……?




「……寧音ちゃん?」


「っ!」


「大丈夫?」



われに返ってようやく教室に人が増えたことを認識した。


放課後の視聴覚室。
ここで文化祭実行委員の最初の集まりが行われる。



「だ、大丈夫大丈夫!ちょっとぼーっとしてた」



えへへと薄笑いする。


隣に座ってる穂乃花の澄んだ茶色い目は、まだ真っ直ぐわたしを捕まえてる。



「なにか悩みごとでもあるの?」


「え……?」


「あたしでよければ相談に乗るよ?」



穂乃花ちゃん、優しいなぁ。


誰かに話してみたらわかるのかな。

正しい答えが。



「……あ、あのさ……穂乃花ちゃんは好きだった人と友だちになれる?」



クラスメイトも友だちもどうすればなれるんだろう。


今でもこんなに好きなのに。


< 30 / 191 >

この作品をシェア

pagetop