もうそばにいるのはやめました。
始まりは、5ヵ月前
――3月下旬のある日。
わたしはいわゆるお嬢さまだった。
お父さんは小さなレコード会社の社長。
主にメジャーデビューしていないインディーズグループと契約し、音楽を多くの人に届ける仕事をしていた。
そんなお父さんがとあるオーケストラに招待され演奏会を観に行ったとき、そこでソロパートの演奏をしていた当時有名なバイオリニストだったお母さんにひと目惚れした。
偶然の出会いはいつしか運命となり、2人は結ばれ、わたしが産まれた。
音楽に惹かれ、愛された一人娘。
――寧音。
そう名付けられたわたしは、幸せだった。
お父さんとお母さんに溺愛され
幼なじみのようなひとつ年下の執事に支えられ
人より何倍も裕福に過ごしていた。
しかし、3月下旬
突然、日常が終幕する。
会社が倒産した。
正確に言えば、大手レコード会社に吸収されたのだ。
お父さんはこれまでの仕事を全て譲渡し、社長の座を降りなければならなくなった。
大きな家も、たんまりあったはずのお金も、高価なアクセサリーも、使用人も学校の友だちも……全部失った。
残ったのはダンボール2箱分の、必要最低限の荷物だけ。
お嬢さま暮らしはおしまい。
一転して貧乏になり果ててしまった。