もうそばにいるのはやめました。



『本当にきれいだった。心にこう……ぐっとくるっていうか……!うまく言葉にできないけど、わたし、円くんの音好きだなぁ』



不覚にもときめいていた。


俺には忘れられない人がいるのに。




「エンディング、どうかな?」


「やってやれば~?」


「……しょうがねぇな」



ため息混じりに了承したら、彩希がニヤニヤして見てくる。

なんだよ。
気持ち悪ぃ笑い方しやがって。



「バイオリンのソロ演奏、やってくれるの?」


「ああ」


「ほんと?ありがとう!わあ、うれしいな。寧音ちゃんもよろこぶよ!」



うわ、彩希のニヤニヤがもっとキモくなった。

なんなんだよ、こいつ。



「……あ、そういえば、」



斎藤はほころんでいた表情をくもらせた。




「どったの~?」


「実は寧音ちゃん、委員会始まる前まで悩みごとに苦しんでて……」


「悩みごと?」


「たぶん相松くんのことなんじゃないかなって」




レンズの奥の双眼が俺を射抜く。


ゾクッとした。

怖いとさえ感じた。


怒ったところを見たことがない、あの斎藤を怖いだなんて、絶対おかしい。


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