もうそばにいるのはやめました。
「……気になる?」
クラスのやつらが「かわいい」と騒いでいた、この声だって女子の中でも高いだけ。
怖くない……はずなのに。
どこか妖艶で、背筋がこおる。
「あっ!そうだ、俺も悩んでることあんだった!」
急に大声が響いた。
彩希がニッと笑って、俺の手首を取る。
「円、ちょっと相談乗ってくんね?」
「……いい、けど……」
「じゃっ、そういうことで!俺ら帰るわ!またな~」
最後のほうは早口で一気に告げて、斎藤の返しを待つことなく廊下を走っていく。
いきなり走るなよ!
コケそうになっただろ!
生徒玄関に着いた。
そこでようやく手首を解放される。
「……悩みごとってなんだよ」
「ねぇよ、そんなもん」
「はあ?」
けろっとした様子の彩希をにらむ。
じゃあさっきのはなんだったんだよ。
「あんなのウソだよウソ」
「なんでウソなんかついたんだよ」
「あのままあそこにいたらやばかったぜ?」
「やばいってなにが」
「女は怖いってこと」
「…………」
「あ、円も感じてたんだ?やっぱ怖かったよな~。円、狙われてんじゃね?」
「……くだらねぇ」
「俺ファインプレーだったと思うけどな~。これこそ宿題5回……いや7回分は……!」
「帰るぞ」
「はい」
靴を履き替えながら、先ほどの問いかけがよみがえる。
『……気になる?』
――ああ、気になるさ。
彩希が大声を出さなければ、深く聞いてしまっていたかもしれない。
本当にあいつが悩んでいて
その原因が俺なら
気になって当たり前……だよな?