もうそばにいるのはやめました。



「……気になる?」



クラスのやつらが「かわいい」と騒いでいた、この声だって女子の中でも高いだけ。


怖くない……はずなのに。



どこか妖艶で、背筋がこおる。



「あっ!そうだ、俺も悩んでることあんだった!」



急に大声が響いた。


彩希がニッと笑って、俺の手首を取る。



「円、ちょっと相談乗ってくんね?」


「……いい、けど……」


「じゃっ、そういうことで!俺ら帰るわ!またな~」



最後のほうは早口で一気に告げて、斎藤の返しを待つことなく廊下を走っていく。


いきなり走るなよ!

コケそうになっただろ!



生徒玄関に着いた。


そこでようやく手首を解放される。



「……悩みごとってなんだよ」


「ねぇよ、そんなもん」


「はあ?」



けろっとした様子の彩希をにらむ。


じゃあさっきのはなんだったんだよ。




「あんなのウソだよウソ」


「なんでウソなんかついたんだよ」


「あのままあそこにいたらやばかったぜ?」


「やばいってなにが」


「女は怖いってこと」


「…………」


「あ、円も感じてたんだ?やっぱ怖かったよな~。円、狙われてんじゃね?」


「……くだらねぇ」


「俺ファインプレーだったと思うけどな~。これこそ宿題5回……いや7回分は……!」


「帰るぞ」


「はい」




靴を履き替えながら、先ほどの問いかけがよみがえる。



『……気になる?』


――ああ、気になるさ。



彩希が大声を出さなければ、深く聞いてしまっていたかもしれない。



本当にあいつが悩んでいて

その原因が俺なら


気になって当たり前……だよな?


< 42 / 191 >

この作品をシェア

pagetop