もうそばにいるのはやめました。


よりにもよってどうして今日なんだよ。


今日は両親が観に来てくれてるっていうのに。



どうしたらここから抜け出せるんだろう。


出入口はひとつだけ。

助けを呼ぼうにもコンクールは始まってるだろうし、そもそも控室もステージもここからじゃ遠い。


一体どうしたら……。



『うぅ……ここどこ……?迷路みたい……』



絶え間なく飛んでいた悪口がピタリと止んだ。


代わりに涙ぐんだ声が届く。



誰か、来た……?



『あ、すいません!あの、ステージって……』



女子の声だ。


扉の前まで近寄ると、女子は一瞬黙り込んだ。




『あーえっと、ステージはあっちの……』


『そのバイオリン』


『……え?』


『あなたのじゃないですよね』




今の今まで震えていた声が、男子たちを責め立てるようにするどくなった。


男子たちの動揺が扉を越えて伝わってくる。




『い、いや、なに言ってんだよ。俺のだよ!』


『だとしたらあなたに持つ資格はありません』


『はあ!?なにをえらそうに……!』


『楽器は繊細なんです。そんな乱暴に持って、振り回して、雑にあつかっていい物ではありません』




乱暴に持って、振り回してるだって……!?

俺のバイオリンを!?


あいつら……許さねぇ。


< 45 / 191 >

この作品をシェア

pagetop