もうそばにいるのはやめました。
よりにもよってどうして今日なんだよ。
今日は両親が観に来てくれてるっていうのに。
どうしたらここから抜け出せるんだろう。
出入口はひとつだけ。
助けを呼ぼうにもコンクールは始まってるだろうし、そもそも控室もステージもここからじゃ遠い。
一体どうしたら……。
『うぅ……ここどこ……?迷路みたい……』
絶え間なく飛んでいた悪口がピタリと止んだ。
代わりに涙ぐんだ声が届く。
誰か、来た……?
『あ、すいません!あの、ステージって……』
女子の声だ。
扉の前まで近寄ると、女子は一瞬黙り込んだ。
『あーえっと、ステージはあっちの……』
『そのバイオリン』
『……え?』
『あなたのじゃないですよね』
今の今まで震えていた声が、男子たちを責め立てるようにするどくなった。
男子たちの動揺が扉を越えて伝わってくる。
『い、いや、なに言ってんだよ。俺のだよ!』
『だとしたらあなたに持つ資格はありません』
『はあ!?なにをえらそうに……!』
『楽器は繊細なんです。そんな乱暴に持って、振り回して、雑にあつかっていい物ではありません』
乱暴に持って、振り回してるだって……!?
俺のバイオリンを!?
あいつら……許さねぇ。