もうそばにいるのはやめました。
『もしかしてあなたたちはコンクール参加者ですか?』
『そうだけど?』
『だったらなんだよ!』
『バイオリンを愛していないあなたたちにバイオリンを持つ資格も、コンクールに参加する資格もありません。そのバイオリンを返して、さっさとお帰りください』
顔は見えないけれど、声だけ聞けばなんとなく察した。
女子は俺以上に怒ってる。
俺以上にバイオリンを愛してる。
『さ、さっきからなにさまなんだよ!』
『資格がどうのって……お前こそそう言う資格ねぇじゃんか!』
『言うことをきかないのであれば、わたしから審査員やコンクールの運営者にこの件を伝えて、強制的に棄権にさせてあげてもいいんですよ?』
ほとんど脅しじゃねぇか……。
でも自信を持ってああ言えるってことは、参加者じゃなくて運営側に近い立場なのか?
『おい、やばくねぇか?』
『……チッ』
扉に耳を当てたら、男子たちのコソコソ話を拾えた。
『か、返せばいいんだろ!』
男子たちの足音が消えていく。
うわあ、すげー。
男子2人を女子1人で片付けやがった。
『バイオリンさん、大丈夫だった?傷は……ないみたいだね。よかったぁ』