もうそばにいるのはやめました。
『社長、わたしを信じてついてきてくださいませんか』
そう告げたのは、お父さんの秘書だった相松さん。
やつれたわたしたちとは違い、彼だけはビシッとスーツを着ていた。
年の離れた兄のように、叔父のように
尊敬していた彼のまま。
ただ一人、前を見据えていた。
もう秘書じゃないのに、わたしたち家族を助けようとしていた。
相松さんはこれから日本を離れ、仕事のつてで海外の音楽業務に勤めるらしい。
そこでお父さんも一緒に海外へ出稼ぎに行かないか、と誘った。
これからの生活のためにお父さんは賛成し、お母さんはお父さんに付き添うことに。
そして、わたしは……
『お嬢さまはどうなさいますか』
お嬢さまのままだったら、4月からお嬢さまやお坊ちゃまが多く通う高級志向の私立高校に入学するはずだった。
だけどもうそんなお金はないし。
かといって両親についていっても足手まといになるだけ。
それなら。
『わたしは日本に残ります。公立の学校に行って、しっかり勉強して、今わたしにできることをします!』
自分のために、家族のために。
将来のために。
わたしはわたしの道を行く。