もうそばにいるのはやめました。
宙ぶらりん



教科書を盾にしながら指先をいじる。


絆創膏だらけ。
傷がいっぱい。


いつもきれいにケアされたお嬢さまの手は、今はどこにもない。


昨日は2か所やっちゃったんだよね。

これでも少ないほうだ。



10月に入り、文化祭が近づいてきた。



メイド執事喫茶の準備も本格化し始めた。


教室のうしろには準備の名残が追いやられている。



わたしは当日接客をする予定。

だから自分用のメイド服を作ってる。


……それでこのありさま。



お裁縫って料理以上に難しい。


手縫いは針の先端が指に刺さるし、ミシンは布も縫い目もがたつくし。



衣装作り以外にも委員会の仕事もある。


予想以上に毎日忙しい。


でもいいの。

望んでいたことだから。



恋愛のことを考える余裕なんかないのが、ひどく気楽。



「竜宝!」


「は、はひっ……!」



しまった!油断してた!


はじかれたように顔を上げる。



う、うわぁ……。

先生の笑顔、真っ黒……。



今は昼休み前の数学の授業。


担当はわがクラスの担任。


怒るとめちゃくちゃ怖い。



「この問題やってみろ」


「は、はいぃぃ」



ぼーっとしてたのがバレたんだろうな。


教壇前でもうしろでも、注意されるのはどこの席も変わらないんだ。とほほ。

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