もうそばにいるのはやめました。


夏休み初日に風邪を引いたわたしを、円が看病してくれたとき。


熱っぽいおでこに添えた円の手のひらがとても気持ちよかった。



今はもう、甘えられない。



「やめてっ」



円の手を振り払った。


チクリ。

左胸にトゲが刺さったみたいに痛む。


そんな顔しないでよ。


寂しげに歪んだ顔。



「なんで……俺のこと、避けるんだよ」



ごめん。

そうすぐ伝えたかった。


でも唇が動かない。



「俺は今までどおり、お前と……!」


「わたしは今までどおりなんて望んでない!」



やっと動いた唇は「ごめん」とはかけ離れた言葉を放っていた。



今までどおりじゃダメなんだよ。


だってそれじゃあわたし、円のことを好きなままなんだよ?



もう一回わたしが「好き」って告白したら困るでしょ?



だから「好きだった」にしようと頑張ってるのに。


円が今までどおりを望まないでよ。



「あの告白をなかったことにしないで……っ」



忘れてほしいんじゃない。

「好きだった」ごと受け入れたいの。


失恋したての今はまだ、そのくらいの距離がちょうどいいのかもしれない。




突如カーテンが開いた。



「待たせてごめんなさいね。ないとは思うけどまず体温をはかったもらえる?」


「……先生、こいつのこと頼みます」



体温計を持ってきた先生と入れ替わるように円が立ち去った。


指先に残った円の温もりにすがりたくなって、ぎゅっと握りしめた。


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