もうそばにいるのはやめました。


この仕事をすすめてくれたのは、他でもない円。



『わたしもお金を稼いで、お父さんとお母さんの力になりたい!』

『あっそ。勝手に頑張れば?』

『お金ってどうやって稼げばいいの?体を売ればいい!?』

『……世間知らずにもほどがあるだろ』



初めは興味なさそうにしてた。


しかしその翌日には、わたしに合いそうな仕事をリストアップしてくれていた。



『ん』

『え?これ……アルバイト情報?』

『お前ができそうなやつ集めといた』

『こんなにたくさん……。円くんありがとう!』

『まあ、採用されるかは別だけどな』

『うっ。が、頑張ります……』



紙に印刷してまとめられたアルバイト情報。


わたしのためにわざわざ作ってくれたのがうれしかった。



その情報の中にあった仕事先のひとつが、ここ。

学校の近くにある、商店街の楽器店。


失敗は山ほどしてきたけど、ここの仕事は楽しい。


円の情報は正解だったね。



――カラン、コロン。



出入口の扉についた金色の鈴が鳴った。

お客さまだ。



「いらっしゃ……っ!!」



ませ、と続く声を酸素ごと飲み込む。


衝動的にしゃがみこみ、レジの陰に隠れた。

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