もうそばにいるのはやめました。


ウソ!

なんで。
どうして。


み、見間違いじゃないよね……?



陰からそうっと覗いてみる。


……やっぱり見間違いじゃない。

円だ。



「どうして……」



これまでここに来店したことなかった。


どうして今日来ちゃうの。



円はバイオリンの置かれた場所をじっくり観察したあと、楽譜の並ぶほうへ移動した。


気に入った楽譜を1冊手に取り、軽く目を通し出す。



この楽器店には楽譜が豊富にある。

ピアノ専用の楽譜、バイオリン専用の楽譜、古い物から新しい物まで種類が多い。



「もしかして……」



文化祭のエンディングのために曲選びだったりバイオリンのお手入れだったり、円なりに頑張ってるのかな。


断ったってよかったのに。


穂乃花ちゃんが説得してくれたの?

それとも快く引き受けてくれたの?



わたしの勝手な提案が、円を無理させてない?



不意に円が辺りを見渡した。


条件反射で頭を引っこめる。



……ば、バレてない?



「……あいつはいないか……」



静かな店内だからだろうか。


小さな呟きを簡単にすくい取れた。


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