もうそばにいるのはやめました。
あいつって……わたしのこと?
円がわたしを探してる。
……わたしに、会いたがってる。
くらくらした。
めまいじゃない。
もっとやっかいな病のせい。
『俺は今までどおり、お前と……!』
『わたしは今までどおりなんて望んでない!』
円にきつく言い返してしまったばかり。
わたしのわがままを押し付けてもなお、円はわたしを避けない。
こうやって会いに来てくれる。
だけどわたしのことは好きじゃないんだよね。
わたしだけ「好き」を募らせてる。
そこに「だった」を足すのは
数学みたいに簡単じゃないんだよ。
円は知らないでしょ。
わたしがこんなに悩んでること。
「すいません」
「はい?」
手入れ用のクリーナーと1冊の楽譜を持って、円が店長に声をかけた。
「竜宝さんって今日いますか?」
て、て、店長おおお!!
レジのほうを向いた店長に、手で大きく「×」の印を作る。
だめ!だめです!
頭がもげそうなくらい左右に振る。
いないってことにしてください!
円もこちらを見てきて、すぐさま隠れた。
お願い、店長!
「竜宝でしたら今日はいませんが、なにか用事がございましたか?言づてがあればたまわりますが」
「あ、いないならいいんです」