もうそばにいるのはやめました。


久し振りのハルくんだ。

ハルくんに会えた。



ハルくん――八文字 晴澄(ハルスミ)は、ナツくんの弟で、わたしの幼なじみで。


そして、わたしの専属執事だった。



会社が倒産し、解雇した3月を最後に会ったきりだった。



ねぇ、もっとよく顔を見せて?


わずかに腕をゆるめれば、ハルくんの口の周りにチョコレートがついていた。




「ふふっ」


「姫?」


「ナツくんのクラスでチョコバナナ食べたでしょ」


「えっ、なんでわかるんすか!?エスパーっすか!?」


「ちがうよ」




笑いながらチョコを拭ってあげる。


ナツくんの前ではわたしは妹みたいになるけど

ハルくんの前ではお嬢さまにもお姉ちゃんにもなれる。



離そうとした手を強く握られた。



「姫……ずっと会いたかったっす」


「わたしもだよ」


「ぜーったい僕のほうが会いたかったっす!!」



手を引かれた勢いで、ハルくんの胸板に顔面をぶつけた。


そのままもう一度包みこまれる。



わたしよりも小さかった手も背も、いつの間にか大きくなった。


今じゃすっぽりおさめられちゃうね。



中学3年生の成長期。


弱かった力も、強くなった。

ちょっと痛いくらい。


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