もうそばにいるのはやめました。
なんてことなく横切らなきゃ変に思われちゃう。
なのに、鉛がのしかかったように足が重たくて。
動かせない。
「お願いね」
「……おう」
話し終えたのか、更衣室へ行く穂乃花ちゃん。
教室に戻ろうとした円と目が合った。
1秒にも満たない。
それでも長く感じた。
円のほうが早く逸らした。
円も距離感に迷ってるんだ。
……わたしが、迷わせてる。
動け。
動いてよ、わたしの足!
一歩踏み出せれば、あとは無我夢中。
たどたどしく、けれどしっかりと、円を素どおりして歩いていく。
呼吸がうまくできなかった。
円のほうを見ないように、できるだけ足元に集中する。
ふと視界が暗くなった。
足元の影が薄まる。
「……?」
ギギ……。
なにかがきしむ音がした。
嫌な予感がする。
おそるおそる顔を持ち上げていく。
「っ、」
廊下に立てかけられていた、人3人分ほどの大きな木製の看板がゆらり、かたむいていた。
このままじゃ、わたし。
看板につぶされる……!
迫り来る看板から逃げなくちゃ。
足がすくむ。
また動けなくなった。
「きゃあっ……!!」
ほのかちゃんの甲高い悲鳴。
目を固くつむった。