もうそばにいるのはやめました。
頭より先に体が動いていた。
さっきはまったく動いてはくれなかったのに。
気づいたら円の左手をつかんでいた。
これまで避けていたこととか、気まずさとか、今はどうだっていい。
円の左手をぎゅっと握って、保健室まで猛ダッシュ。
あちこちに用意された誘惑は一切気にならなかった。
保健室の扉をスライドさせる。
「先生!円の右腕が大変なんです!!!」
開口一番、カラカラな喉を震わせた。
大あわてで診てくれた先生いわく、骨は折れてないそうだ。
「でも……青く腫れてるし、エンディングのソロ演奏は無理そうね」
右腕の青くなった部分に包帯を巻きながら告げられた。
少し動かすだけで痛そうにしてる。
演奏はきびしいだろう。
「演奏できます」
それでも円は意志を曲げなかった。
腕の痛みは円自身が一番わかってるでしょ?
無茶だよ。
「やめたほうがいいわ。悪化するわよ?」
「ちょっと弾くくらいできます」
先生の忠告をばっさり切り捨て、かたくなに意地を張る。
バイト先の楽器店にまで来たくらい必死になってくれていたもんね。
やると決めたからにはやり遂げようとする。
やっぱりかっこいいね、円は。
でもさすがにがんこすぎ。
円の演奏はコンディションがバッチリなときに聴いてもらいたい。