もうそばにいるのはやめました。
「わたしが、演奏する」
「え……?」
「円の代わりにわたしがステージに立つよ」
今度はわたしが円を助ける番。
「いや俺が……」
「わたしが弾く!」
お願い。
今回はゆずってよ。
痛覚は無理だから、その意志と責任を。
プライドごと分けてくれないかな。
「知ってるでしょ?わたしもバイオリンを弾けること」
「だ、だけど……」
「こういうときくらい甘えてよ」
『こういうときくらい甘えろ』
おぼえてる?
前に円が言ってくれたセリフだよ。
「……わ、わかった」
がんこ勝負。
ため息混じりに円が白はたを上げた。
教室に戻ってクラスメイトに事情を説明した。
教室の裏手に置いていた、バイオリンを入れたケースを受け取った。
「大事にあつかえよ」
「もちろん。円の大事なバイオリンだもんね」
「……任せたぞ」
「うん!全力で頑張る!」
休憩時間が終わったら円には右腕にあまり支障のない、入口で案内する仕事を主に担当させることになった。
わたしはクラスと委員会に無理を言って、仕事を他の人に代わってもらった。
楽器は一日弾いてないだけで音色が変わる。
バイオリンは半年触れてない。
長いブランクがあるため、エンディングまでにバイオリンの練習をしなければならない。