もうそばにいるのはやめました。



「わたしが、演奏する」


「え……?」


「円の代わりにわたしがステージに立つよ」



今度はわたしが円を助ける番。



「いや俺が……」


「わたしが弾く!」



お願い。
今回はゆずってよ。


痛覚は無理だから、その意志と責任を。

プライドごと分けてくれないかな。



「知ってるでしょ?わたしもバイオリンを弾けること」


「だ、だけど……」


「こういうときくらい甘えてよ」



『こういうときくらい甘えろ』



おぼえてる?


前に円が言ってくれたセリフだよ。



「……わ、わかった」



がんこ勝負。

ため息混じりに円が白はたを上げた。



教室に戻ってクラスメイトに事情を説明した。


教室の裏手に置いていた、バイオリンを入れたケースを受け取った。




「大事にあつかえよ」


「もちろん。円の大事なバイオリンだもんね」


「……任せたぞ」


「うん!全力で頑張る!」




休憩時間が終わったら円には右腕にあまり支障のない、入口で案内する仕事を主に担当させることになった。


わたしはクラスと委員会に無理を言って、仕事を他の人に代わってもらった。



楽器は一日弾いてないだけで音色が変わる。


バイオリンは半年触れてない。


長いブランクがあるため、エンディングまでにバイオリンの練習をしなければならない。


< 87 / 191 >

この作品をシェア

pagetop