もうそばにいるのはやめました。
前に一度斎藤を恐れたのはきっと、平等に優しいところしか知らなかったからだ。
今は、もう、ちがう。
「なんであんなことしたんだ」
普通のテンション、普通のトーン。
自然をよそおってなにげなく尋ねた。
「なんの話?」
返事も普通のテンション、普通のトーン。
……微動だにしないんだな。
「看板だよ」
「……看板がどうしたの?」
「アレ倒したの、斎藤だろ」
「ええ、ちがうよ。あたしが倒すわけないじゃん」
「しらばっくれるな。俺は斎藤が倒すところを見たんだ」
更衣室に向かったフリをして、看板をかたむけた。
――俺を狙って。
だが狙いがはずれ、俺ではなく寧音のほうに倒れてしまった。
だから斎藤は悲鳴を上げたんだろ?
「……そう、見てたんだ」
ずっと保っていた微笑が枯れていく。
冷ややかな声に戦りつした。
「俺にうらみでもあるのか?」
「標的が自分だって自覚してるんだね。さすが学年トップ」
「茶化すな。答えろ」
「……うらんではないよ。しいて言うなら、嫉妬?」
嫉妬?
俺に?
なんで……。
疑念が深まる。