もうそばにいるのはやめました。
「だからバラさないでね?」
「……言わねぇよ」
「言質とったからね?バラしたら……」
「言わねぇって」
バラしたら俺どうなるんだよ。
怖くて深掘りできねぇ。
笑顔も黒いし。
だけど、あいつは
こんな怖い斎藤のことを信頼してるんだよな。
『ホノカちゃん……?友だちっすか?』
『うん!同じ文化祭実行委員なの』
『そっすか。友だち……できてよかったっすね』
――バラせるかよ。
知ったらあいつが悲しむだろ。
……でもこれからは斎藤に注意しておこう。あいつになにかあってからじゃ遅ぇし。
斎藤をにらんでいると、とうとうステージの幕が上がった。
未だにしらけた微妙な空気感。
おもしろがってブーイングしてるやつもいる。
ステージの中央にライトが集まった
その瞬間
誰もが息をのんだ。
俺も、斎藤も、関心のなかった生徒も、全員がステージにくぎ付けになった。
「……きれー……」
耐えきれず斎藤がささやいた。
あそこにいるのは本当に俺の知る“竜宝寧音”なのだろうか。
光が当たってよりつやめく赤茶の髪。
メイド服をアレンジしたドレス。
緊張や恐怖を感じさせない顔つきは、忘れられないあの子の面影を帯びていた。