彩りのある場所で、恋を
「きみにより 思ひならひぬ世の中の 人はこれをや恋といふらむ」

俺がそう言うと、和歌の意味を知っている玉井先生は「えっ!?」と顔を赤く染める。そんな先生を見るのは初めてだ。

この歌の意味は、あなたによって「思い」というものを学びました。世の中の人は、これを恋というのでしょう。初めて、想いを口にできた。

「俺は、先生と過ごしていくうちに本気で先生のことを想うようになりました。返事はなくてもいいです。でも、想っている人がいるということを覚えていてください」

そう言い、俺はくるりと先生に背を向ける。これでいい。きちんと伝えられたから。不思議と胸は痛くなくて、逆に清々しいんだ。

「待って!」

ギュッと玉井先生に手を掴まれる。先生に初めて触れられた。こんなに柔らかな手なんだ。また胸が優しい音を立てる。

玉井先生は、頰を赤く染めたまま口を開いた。

「筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる」
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