この空の下、きみに永遠の「好き」を伝えよう。
ナースステーションのそばのカンファレンスルームの前を通りかかったときだった。
中からすすり泣く声が聞こえて足を止める。さっきまで病室にいた両親がどことなくそわそわしていたのを思い出して、ピンときた。
「もう効果が出てもいいのに、まったく効いてないって……それじゃあべつの抗がん剤を使ってください。もっと強いのを……っ」
お父さんの悲痛な声に胸がざわざわした。
「通常なら三クール目をすぎると著しく効果が現れるんです。三クール続けても効果が現れない場合、他の抗がん剤に切り替えるんですが……」
「なにか問題でもあるんですか? ひまりを、娘を助けてくださいっ……!」
お父、さん……。
「正直に申し上げますと、ひまりさんの白血病の型には今以上の抗がん剤はないんです。予後不良というのも、実はそこに起因していて。他に使用できる抗がん剤がないんです。そもそもひまりさんのは珍しい型で、私自身あまり診たことがない。このまま続けると体力が落ちてますます病状は悪化する一方……続けると抗がん剤のせいで命を失ってしまう可能性もあります」
「そ、そんなっ……!」
「どうして!?」
目の前がグラグラした。胸の奥をナイフでグリグリとえぐられているような痛み。
これ以上聞くのを脳が拒否している。でも足が動かない。唇がわなわなと震えて、恐怖が襲った。
「厳しいことを言うようですが、このまま抗がん剤を続けてもひまりさんを苦しめるだけかもしれません……抗がん剤をやめて残りの人生を彼女らしくすごすのか、それとも治る可能性を信じて続けるのか……決断してください」
「決断なんて……私たちには……とてもっ」
「なんとか、なんとか助かる方法はないんですか! なんとかしてひまちゃんを……っ」
「力が及ばず、申し訳ありません……」
両親の泣き叫ぶ声を聞いてやっと足が動いた。
ふたりの嗚咽が廊下まで響いてきた。涙で目の前がボヤけて視界がかすむ。
「先生……!」
「ひ、ひまり!?」
三人は青ざめていた。
「治療、やめます」
「ひまちゃん、ダメよ! そんなのっ!」
「そうだ。おまえは治るんだから。諦めないで、このまま」
「もう疲れちゃった……私は穏やかにすごしたい」
三クール目で効果が期待できなければ、今後抗がん剤が効く可能性はほとんどない。私だって調べなかったわけじゃない。たくさん調べて、どの記事にも書かれていたことだ。
そしてそのぶん絶望した。抗がん剤を続けて苦しい日々を送るくらいなら、私はその日がくるまで穏やかにすごしたい。