この空の下、きみに永遠の「好き」を伝えよう。
当然眠れるはずもなく、ひまをベッドに下ろすと近くのパイプ椅子に座って手を握った。
「晴くん……ありがとう」
「うん、もう寝ろ。おやすみ。寝つくまで手、繋いでてやるから」
「ん、わかった」
細くなった枝のような指で必死に俺の手を握り返してくるひまが愛おしい。離れたくない。一年後も、十年後も、この先の未来も一緒に歩いていきたい。
「やっぱり眠れないや……ねぇ」
「なんだよ?」
「本当は明日言おうと思ってたんだけど、今のほうが落ち着いて話せそうだから言うね」
「…………」
「もう、こないで……明日で、さよならしよう」
俺の笑顔が好きだと言ったから、せめて今このときだけは笑え。
「なんだよ、それ。意味わかんねぇ」
「晴くんにとって……かわいい私のままで逝きたいから」
ひまの目から涙がこぼれ落ちた。病気になって俺と再会してから二度目の涙。
「これ以上、みじめな姿、見られたくないっ……」
逝きたいなんて……言うんじゃ、ねーよ。
死なないって言っただろ?
なに、言ってんだよっ。
「もう会わない」
「嫌だ……」
「だから、私のことは忘れて……」
「無理に、決まってるだろ……っ」
「幸せになって。それが私の望みだよ」
涙でぐちゃぐちゃの顔で、ひまは俺に笑ってみせた。
ひまの強い決意になにも言い返せなかった。目が冴え、眠ることができず、ひまが小さな寝息を立て始めた明け方、我慢していた涙がとめどなくあふれた。胸がヒリヒリする。好きなのに、どうして離れなきゃいけないんだ。
もう絶対に助からないのか?
この期に及んでまだそんなふうに考えてしまってる。
気づくと眠りに落ちていた。目覚めたのは昼近くで、頭が重い。寝ているひまのそばに行き、ヒヤッとさせられた。青白く、まるで生気のない寝顔。
息、してるよな……?
ドクドクと鼓動が高鳴る。背中に冷や汗が伝った。
規則正しく上下に動く布団を見て、呼吸していることがわかるとホッと胸を撫で下ろした。
怖い。ひまがいなくなるのが。まだ俺には受け入れられていないから。今でも信じられるわけがない。でも……今の一瞬でわかってしまった。それほど遠くない未来に、ひまはいなくなるのだと。
改めてそれがわかると、ひまが背負ってるいろんなものが見えてきた。苦しいよな、怖いよな……。そんな言葉じゃ足りない。
それでも笑っていられるひまは、どれだけ強いんだろう。恐怖で足がすくんでいる俺とは大ちがいだ。
いつの間に起きたのか、ギョロッとした目が俺を見ていた。
「おはよ、ひま」
「おはよう」
「見ろよ、いい天気だぞ」
「わ、ホントだ…………」
カーテンから差し込む日差しに目を細める。
空気が澄んだ穏やかな朝。それなのに、心はどんより重い。