KANATA~answers of your selection~
そして来る8月6日。


午前9時半に到着し、係りの人から説明を受け長内教授のいる臨床試験室に通された。



「やあ、待ってたよ。3日間よろしくな。有意義な時間を過ごしてお母さんにパラレルワールドの素晴らしさをぜひ力説してくれ」



結局この人はパラレルワールドに否定的な母を納得させるためにオレを利用するのか。


まあいい。


あの時のオレには目的がなかったが、今は明確な目的がある。


利用されるなら、オレだって利用してやるよ。


全ては...


オレと辻村の真実を知るためだ。



「では、被験者No.82、阿部奏太の臨床試験を開始する。早速だが、その空きベッドに横になってくれ」



オレの他にもう1人試験を受けている人がいた。


オレはその隣のベッドに大人しく横になり、自動的に手足を固定され、頭に鉛のように重たいヘルメットを被せられた。



「これで脳波を見たり、奏太の過ごしている時間を見る。奏太がどこまで遡れるのか見るために重要な機械だ」



そう説明された後、母と同じようなナース服姿の女性が近寄ってきてオレに注射器を見せた。



「これを打つと約3分後に眠気が襲ってきます。熟睡したあと、薬の効果が切れるまで3日間眠り続けます。ご理解とご覚悟はよろしいですか?」


「はい。大丈夫です。よろしくお願いします」



正直怖い。


このまま一生の眠りについてしまうのではないかと不安になる。


でもそれよりも辻村のことが心配だ。


オレが何もしないで辻村にもしものことがあったら...。


おばあさんの後を追うようなことがあってからでは遅い。


オレは後悔したくない。


後悔から生まれる幸せがあったとしても後悔しないで生きたほうが良いに決まってる。


だからオレはもう迷わない。


オレは...行く。



「では打ちますね」



昔インフルエンザの予防接種を一時間も駄々こねて打たずじまいになったことがある。


打たれるのは今でも嫌いだし、針を見るのだって、なんなら病院の雰囲気も匂いだって嫌いだ。


だけど逃げない。


逃げたくないんだ、もう。


オレは知りたい。


オレは...


オレは...


オレは...。



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