KANATA~answers of your selection~
「ん?ん...」



どうやらオレは目覚めたようだ。


ここはきっと夢の中。


早くもう1人のオレともう1人の辻村を見つけないと。


ってかここどこだ?


オレは一体どこに...。


ん?


匂いを嗅いで気付いた。


この鼻に来る独特の匂い。


そして聞こえてくるピーピーという不気味な機械の音。


どれもオレの嫌いなものだ。


よりによってなんで病院で目覚めるんだよ。


寝る前に注射器を思い出したのが悪かったんだ、きっと。



「カナタくん、お母さんが来るまでここで待っててね」



カナタくん?


絶対オレのことだ。


看護師の話し方からするとオレは過去に来たみたいだ。


でもオレは母さんの職場になんて行ったことはなかった。


病院は病気の人や深刻な障害がある人が診てもらったり、静養したりする場所だからむやみに来ちゃダメよ。


それが母の言い分だ。


一体どんな風の吹き回しだ?


やっぱり同じ阿部奏太とはいえ、違う時間を生きているから別人のように感じざるを得ない。


と、そんなことを考えているうちにかなたは小児外来の小さな空き室に入っていった。


どうやら昔から聞き分けは良いみたいだ。


さてと、アイツが何もしでかさないように見張っているとするか。


まだクラクラする頭に手をやりながら、かなたを追って歩き出すとどこからか怒鳴り声が聞こえた。



「ちょっとそこの人!」



病院で怒鳴られるなんて不運なやつもいるものだ。



「何とぼけてるのよ!あなたよ、あなた!」



えっ?


いや、まさか。


まさかそんなはずは...。



「どちら様?」


「えっと...その...オレは...」


「怪しいわね~。ま、今日の所は見逃してあげるから早くここから出ていきなさい」


「えっ、ちょ、ちょっと!」



オレはベテラン看護師に背中をどつかれ、小児外来から閉め出された。


これではかなたの様子が分からない。


アイツだけが頼りなのに。


つうか、この世に阿部奏太が2人存在するって不味くないか。


よくファンタジー小説や漫画にあるように、1つの世界には1人として同じ人間がいないから成り立っていて、2人いるとなれば、それは世の中の理にそぐわなくなる。


理に反した行動をとったり、むやみにこの世界に干渉したりしたら大変なことになるんじゃないのか。


急に自分の存在が恐ろしいものに感じ、だったら自分と会わない方が良いのではないかと思った。


オレはひとまず一般外来に移動することにした。


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