KANATA~answers of your selection~
「ヤッホ~奏太」


「未夢。どうしてここに?」


「来ちゃダメだった?」


「そういうことではないけど」


「じゃあ遠慮なく」



未夢がここに来るのは初めてか。


それにしてもなぜこのタイミングで来るのだろう。


帰ろうと思ったら一緒に帰れるんだし、話があるならその時でも良かったんじゃないのか。


未夢の顔をちらっと見るとばっちり目が合った。


未夢が昔と変わらぬ笑顔をオレに向けてくる。


この笑顔を見ると罪悪感が込み上げて来て、オレの心を蝕む。


あの時、未夢を拒絶した痛みがまだ心の奥底で燻っていてオレを縛り付けているのかもしれない。


オレは反射的に目を剃らした。



「奏太にほうれんそうがあって来ました」



ほうれんそう?


何のことだ。


首を傾げながら遠くを見つめるオレに未夢が話しかける。



「まずは報告から。私、大和田未夢は本日を持って真島良とお別れいたしました」


「えっ?」


「次に連絡ね。未夢は3月10日に実家を出ます。春から一人暮らし、頑張ります」


「未夢、1回ストップ」



色んな情報が一気に押し寄せてきて頭が追い付かない。


オレがそう言っても未夢は話すのを止めなかった。



「最後に相談。未夢は奏太のことを諦めるべきでしょうか」



未夢...


やっぱり君は俺のこと...。



「ちっちゃい頃からずっと好きなんだよ。そんな簡単に諦められるわけないじゃん。良には申し訳ないけど、奏太の代わりにはならなかった。未夢は...未夢は奏太じゃなきゃダメなんだ」



そうだよな。


未夢はずっとオレだけを見ててくれた。


幼い頃、オレが公園で遊んでいて鬼ごっこをしていた時、顔面からすっころんで泣きわめいていた。


未夢はそんなオレを起こしあげ、水道まで連れていくと、自分のハンカチが血で汚れるのなんか気にしないでハンカチを濡らしてオレの傷を手当てしてくれた。


バスケの練習を見に来てくれたり、母さんに頼まれて弁当を届けてくれたり、一緒に練習したりした。


オレと虹晴が寂しくないように、両親が不在の時は家に招いて手料理を振る舞ってくれた。


勉強はそんなに得意じゃなかったけど、頑張ってドリルを何回も解いたり、オレのアドバイスを真面目に聞いて良い点を取ろうと努力していた。


高校にはいってからは益々バスケに熱を入れるようになってオレは何回も居残り練習に付き合わされた。


今となっては全部良い思い出だ。



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