キミが、消えた
 この恋は実る必要は無いんです。ただ少しでも長くそばにいられたら、それでいいんです。それが私の正直な気持ちです。もし私の遺品を見つけたら、一つ残らず燃やしてください。未練を現世に残したくないし、あなたに私の気持ちを知られるのは恥ずかしいので・・・。
 でも最後にこれだけは言わせてください。あのとき傘を貸してくれてありがとう。あなたに教えられたこと、言いたかったこと、沢山あったけど、全て墓まで持っていきます。浩二君はこれから大人になって、私よりも素敵な人と出会って、素敵な恋をしてくださいね。あなたの幸せを祈っています。さよならは言いません。いつか何十年後かに天国でまた会いましょう。栞より、想いを込めて。
 手紙を読み終わったとき、僕の瞳からは熱い水が流れて落ちてきていた。これが涙という奴か。とめどなく溢れてくる彼女への想い、
栞の僕への愛情に僕は胸をわしづかみにされた。
 僕が手紙を読み終えた頃、栞のお母さんがトレイに茶菓子を持って部屋に入ってきた。泣いている僕は必死に袖で涙を拭い、栞の母親と目を合わせた。
  「本当はその日記帳も見つけていたんですよ」
 と栞のお母さんは僕に言った。
 「でも流石に日記までは、故人のものだから渡せなくて。手紙の中身も私は知らないのよ」
 そう言ってうっすらと瞳に涙を滲ませるお母さんに、僕は栞の手紙を手渡した。
 手紙を読んでいた母親は、瞳に大粒の涙を流した。そして僕に、
 「栞は本当にあなたのことが好きだったのね。こんな手紙を残していくなんて」
 お母さんの心の堰が決壊したのか、彼女はしゃがみ込み、手紙を抱きかかえて号泣した。僕はお母さんの傍に寄り添い、一緒に涙を流した。
 「浩二君、栞の最後の望みを叶えてくれない」
 栞の望みは遺品を燃やすことだ。僕には考えられない選択だったので、最初は断ったが、お母さんがどうしても、というので受け入れることにした。

         5

 栞の手紙を読んでから一週間後、僕はゆかりを連れて、海岸にやってきた。栞の遺品を浜辺で燃やすことにした。
 「本当にいいの?」
 「これが彼女の望みだから。それに僕も未練を断ち切りたいし、故人よりも、今生きているキミのことを大切にしたいんだ」
 「本当にそう思ってるの」
 「思ってるさ」
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