たばこ
煙草の香りは、辺りを従える。
全ての香りは、煙草の香りによって打ち消される。
煙草は、ここでの王者だ。
それを持つ彼こそもまた、煙草に従えられた一人であることはわかり切っている。
「もういいの?」
低音は、冷たい空気の中でより重厚に響く。
「ふーん。なら、寝れば?」
彼は、冷たく放つ。
「それとも、まだ、足りないわけ?」
彼は、妖艶に笑う。
喉骨の出た首も、骨ばった手の細い指先も。
煙草の灰がはらりと落ちる瞬間も。
彼は知らない。
気にも留めていないだろう。