くちびるが忘れない
うーん…遅い


帰ろうかなぁ


袖をチラッと捲って左手首を見た


22時52分


ふぅ…


溜息を漏らして頬にかかる髪を左耳にかける


「お待たせ」


低いハスキーな声


時計の上から握られた手首の温もり


フワッとふってくる煙草臭い男っぽい香り


どれが一番早かったんだろう


だけど…


そんな事考えてる隙も与えずに左頬を掠める唇


斜め後ろ45度からの優しいキス


いつもの事でわかっていても


その瞬間心臓がピクリと跳ね上がる


柔らかく躯の奥が溶けていく


魔法にかかったみたいに何も考えられなくなるの


「行こう」

『…ぅん…』


腰に回された大きな手に支えられるように


クローズ間近のラウンジを出て人気のないEVに乗る


都心の夜景のキレイなホテル


3ヶ月前から毎週金曜日の事なのに


未だにドキドキするんだ


それを悟られないように必死のポーカーフェイス


可愛いくない女だろうな


まぁ…彼にとってはどっちでもいいんだろうけど


きっと私じゃなくても





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