くちびるが忘れない
ねぇ…


私は何?


金曜日の夜だから?


♪♪♪


ドキッ


私のジャケットのポケットで携帯が鳴った


きっと…甲斐さんだ


『…離し…て…』


♪♪…ー


着信音が途切れて


私と矢野将太郎は動きもせずお互いを見てる


それぞれ相手の言葉を待つように…


ただ彼の携帯から漏れる誰かの声だけが


静まり返った部屋でノイズのようだ


♪♪♪


再度電話が鳴りだして


ビクッとした私の腕を


矢野将太郎は解放した


「フッ…バイバイ」


アノ冷たい声


クルッと背を向けられて


ハッキリ拒絶された


変なの…


離して欲しかったのに拒絶と感じるなんて


力の入らない身体を無理やり起こして


逃げ出すように飛び出した部屋


誰もいない廊下に響く携帯の着信音


出なきゃ…


待ち受けに表示された


甲斐敦士


動揺を消せないまま通話ボタンを押した


「…奈生ちゃん?今電話大丈夫?」


優しい問いかけに


胸がズキズキ痛む


『はい…大丈夫です』

「そう?何か元気ないけど…俺がいなくて寂しかった?」


からかいを含んだ温かい声


ズキズキ…


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