くちびるが忘れない
「何かあった?」


甲斐さん…ごめんなさい


『ちょっと…飲みすぎました』

「えっ?奈生ちゃん?」

『早く…会いたいです』


声が震えた


ごめんなさい


「……もうちょっとで着く。待ってて」

『…はぃ』


甲斐さんに


どんな顔で


会えばいい?


きれた携帯が何だか重たくて


さっきまで掴まれてた腕が熱くて


一歩も動けずに廊下に立ちつくす


私…


心が千切れそうだよ


自業自得ってわかっていても


苦しくて壊れそうでも


どんなに堕ちても


アノ魔法のひとときが欲しかった


そうなんだ


逃れられない


欲しくて欲しくて…


矢野将太郎を求める躯


そんな自分を軽蔑する心


バランスが崩れだす


「奈生?どうした?ボーとして」

『颯太…』


宴会はお開きで数人の同僚がEVから降りてきた


「奈生さ~ん。私と同室ですよ☆」


後輩の女の子になんとか笑顔を返しながら


颯太の探るような視線を避けた


「甲斐さんさっき着いて部長に挨拶に来てたぞ」


ドキンッ


「お迎えに行けば?」

『あ…ぅん』


どんな顔で…


ガチャガチャ


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