くちびるが忘れない
「おっ…戻ってきた。意外に早かったな~将太郎!」


えっ…


こっちこっちと手を振る甲斐さんにパニクる私


無理!!


ここに来るまでだって気まずかったのに


さっきのあの状況の後で2人きりなんて絶対無理だよ


「上司命令って何ですか。雪降りそうなんで早く帰りたいんですけど」


例の凍りつきそうな声で不機嫌に言い放つ


関わりたくない…


『甲斐さ…』

「悪いな。奈生ちゃんを家まで送ってやって」

「……ハァッ?冗談ですよね」


ズキッ


はっきり嫌そうな言い方に傷ついてしまう


面倒くさい上に相手が私ってのも最悪なんだろうなぁ


「本気。さっき俺達別れたけど近くにいたら食べたくなっちゃうし連れて行って」


サラッととんでもない事言ってるよ!


『か…甲斐さん私タクシーで帰れます』

「そんなので帰すくらいなら俺のトコ泊めるよ」


でも無理なの!!


こうやって近くにいても顔も見れず俯いたままなのに


また2時間も2人きりなんて…


「…スッゴい嫌がってますけど。俺がお持ち帰りして食っちゃってもいいんですか」


ドキッ


矢野将太郎が笑いながら言って私の腕を掴んだ


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