化学式で求められないもの
「しょ、しょうがないじゃないですか!あまり目立つの好きじゃないんです!!」

授業中の私を思い出して笑う先生に、私は大声で言う。恥ずかしくてたまらない。

「悪い悪い。ほら、これやるから」

先生はそう言い、私の手にチョコレートを乗せた。おいしいと話題のちょっと高めのチョコレートだ。

「先生、これって……」

「須藤先生からもらったけど、俺は甘いものは好きじゃないしな。織里奈はチョコレート好きだっただろ?」

「……よく知ってますね」

さっきから先生には驚いてばかりだ。どうして私のことをこんなにも知ってるんだろ。先生にとって、私はただのからかうだけのおもちゃじゃないの?

「なあ、知ってるか?」

先生が私を見つめてニコリと笑う。私によく向ける意地悪なものじゃない。素敵な笑顔だ。

「牡羊座にまつわる神話は、感動するエピソードなんだ」

「もちろん知ってますよ!ギリシャのテーパイという国にアタマスという国王とネフェレーというお妃、そして二人の子どもがいました。国王は突然新しい王妃を迎え、二人の息子ができました。そして新しい王妃は前妻の二人の子どもを疎ましく思い、命を狙う計画を立てるんですよ」
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