冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
それは動く
午後二時。
私は先日図書室から持って出た小説を読みながら、侍女が淹れてくれた紅茶を啜っていた。
クランベルは週に一度、執事長ルークスへ報告する事があるみたいで、この場にはいない。
今ここにいるのは、王妃となった時に新しく付いた侍女達だけだ。
殆どクランベルが他の侍女達へ指示を出すので、正直会話らしい話はした事がない。
その為、ちょっとだけ気まずかったりもする……。
「…お妃様」
ティーカップを机に置いて、次のページをめくる。
物語の世界は何だか心地が良い。
「…………お妃様!」
更にページをめくる。
そろそろ良い展開になって来た。
「お妃様!!」
「え!?あ………どうかしたの?」
ハッと現実に戻る。
本から目線を外すと、控えていた侍女がこちらを見ていた。
「読書も宜しいですが、気晴らしにエステルームへ行かれませんか?」
「エステルーム?」
その言葉に、開いていた本を閉じる。
実際にエステというものをした事はないけど、一時期帝国のお義姉様方の間で流行していた。
異国発祥の美容法で、美しく保つ効果があるらしいとか。
実際にどの様な事をするのかは知らないけれど、お義姉様方は確かに美しく見えた気がする。