冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
どこか迷いのある私の瞳を、優しい瞳で見つめた。
「別に気持ちに答えろ…などは言わぬ。ただ…そなたが何やら誤解している様だったので、伝えただけだ。気にするのではない」
「………はい」
私の口からやっと出て来たのは、苦しそうな小さな声だった。
王様は悪いお方ではない。
それはあの出来事も含め、既に分かっている。
聞いた噂こそ酷かったが、私にはこのお方をその様には感じられなかった。
正直言って詳しい事は何も知らない。
好きな食べ物も、好きな趣味も。
何が楽しくて、何が嫌なのか。
少しでも王様に近づける事が出来れば、私の気持ちも何か分かるのかもしれない。
(王様のお気持ちに、いずれはお答えしたい……)
「……そうだ。そなたに伝えねばならぬ事が一つあったのを忘れていた」
「何でしょうか?」
思い出したかの様に口を開いた王様は、近くにあるソファーに視線を向けた。
「長い話をするつもりはないが、取り合えずそこのソファーに腰を下ろせ」
「失礼致します……」
明らかに他とは違う上質なソファーに恐る恐る腰を下ろしたところで、話が始まった。