冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
「今回の事件…結論から言って犯人は分からなかった」
その時、私の頭の中に思い浮かんだのは、あの侍女の姿だった。
「あの侍女は……どうなるのですか?」
別に自分に何かした相手を気遣う程、人間は出来ていない。
けれど、私はあの侍女の事をまだ何も知らなかった。
親しく話していた訳でもないし、何か悩み事があったのであれば相談にのる事だって出来たはずだ。
けれど、私はそれをして来なかった。
しようとしなかった。
ここに来てから何も知らない事に甘えていた。
「…事件を起こした侍女は、王族暗殺未遂として…明日(あす)公衆の面前で処刑を受ける。それはもう変えられない」
「……はい。分かっております」
「関与していたとされる男爵の爵位を持つ男は何者から殺害され、詳しい話を聞く事が出来なかった。公衆の面前で処刑するのは、他に関与していたとされる者への忠告でもあるのだ」
(今回の事件を考えた犯人が分からないと言う事は、まだ危険が残っている…と言う事)
これで少しでもまた同じ事を引き起こそうと企む者が減ってくれるのなら。
「私はそのご決断に反対など致しません」
始めから反対する気は無かったのだが。