冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
「王城で働く使用人の反応でしたらご安心ください」
「何か秘策でもあるのか?」
「やはり耳に入られておりませんでしたか」
口元を緩ませ、可笑しそうに笑うレニアスに王様は怪訝な顔をした。
「王城内では有名な話でございます。『王様は、他の縁談をお断りする程にお妃様をそれは寵愛なさっている』と…」
その言葉に王様は思わず目を丸くした。
「今……何と?」
「王様が勢力を持つ名家との縁談をことごとく断られておりますので、皆がそう噂しているのです。……しかし、王様におかれましては予想通りなのでしょう?」
(予想通り……か)
確かにその様な噂が立ち、結果的にあの者を守れるのであれば、それは予想通りなのかもしれない。
そもそも、ここへ連れて来た理由は他の者から守る為でもある。
幸せな環境で、好む者と幸せな時間を。
……本来、そうあるべきだった。
戦いは終わったのだから、もう苦しむべきではない。
俺も。あの人も。
なのに、あろうことか神は二人に真逆の人生を与えた。
思えば酷い話だ。
あの者が連れ去られたと聞いた時、もう失いたくないと思った。
(けれど……それは違う)
それらは、リティ様に対する想いであって、あの者に対する想いではない。
二度と失いたくないと思ったのも、側に置きたいと思ったのも。
どうしても、リティ様を前提として見てしまう。
あの者であって、リティ様でないというのに。