冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
数日後。
静養を解除された私の元へ訪れたのは、腰の曲がった優し気なお婆さんだった。
「では、早速測らせて頂きますね」
「お…お願い致します」
王様から指示を受けてここへ来られたのが、王国一のデザイナーと言われる有名な方だと知って、思わず緊張する。
ドレス工房『スリナー・サリナ』。
侍女が言うには、名家でさえ順番を待つ程の有名デザイナーらしい。
それが、この間連絡して直ぐに来てしまったという驚異の出来事に、私はただ指示に従う事しか出来なかった。
「貴女スタイルが良いからねぇ~、全面的に身体のラインを強調する様な型にしましょうか」
そう口にしながら、スリナー・サリナさんは手に持った紙にサラサラ書いていく。
「その髪…光に当たって化けそうだね」
(化ける…?)
「そうだ。ドレスの色はこれにしようね。髪飾りはこれで…うん。完璧だよ」
私を見ては独り言を発し、ドレスのデザインを次々に決めていく。
「では、出来上がったら直ぐにお届けしますね」
一通り書き終えたのか。
私はあまり口を開く事もなく、スリナー・サリナさんは満足気は面持ちで帰って行った。
「何だか……嵐の様な人ね」
その光景に思わず呟く。
「多忙な方ですから。無理に予定を開けて下さった事でしょうし、それに時間もないので早速製作に取り組むのでしょう」
パーティーへの参加が決まればもちろん、ダンスを教える講師にも熱が入る。
こうして夜会へ向けての準備が、着々と進められていくのだった。