冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
「行ってしまいしたね…」
その後ろ姿を見つめる。
「これで一息つけるな」
嵐のような彼女が過ぎ去った後に残るのは、何とも言えない疲労感。
これでやっと休む事が出来ると思ったけれど。
次に登場した人物の姿に、思わず表情が凍りつく。
「これはこれは…!人が集まっているので何かと思いましたら、アデリカル王国の国王様ではありませんか!それと久しいな…我が娘よ」
「……………っ…!」
まるで何ともなかった様な表情に、思わず怒りが込み上げてくる。
許せない。忘れるはずがない。
我が娘………なんて、白々しくて鳥肌が立つ。
帝国で過ごしていた時は、私に関心すら持たなかったのに。
無実だと分かっていながら、私を追い出そうとしたのに。
何も無かったように、話せるはずが無い。
思わず拳を握る。
「やっと娘との結婚を公表して下さったようで、これで帝国としても箔が付きます!」
気味の悪い表情で口を開け笑う皇帝の姿に、思わず母の姿が頭に浮かぶ。
皇帝の愛が尽き、ヒステリックを起こした母。
好き…………とは、言えない。
私の事を道具として見て、使えなくなったら見捨てたから。
けれど、一応母だ。
憎しみは消えないけれど、そんな男を愛してしまった母の事は可哀想だと思っている。
利益でしか人を見れない男と、愛を乞う母。
お父様の事を好きにならなければ、きっと母は平民だと蔑まれる事もなく、愛に飢える事も無かったはずなのに。