冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
自分の事だと思い込んでしまったみたいだ。
「このわたくしが…あの小娘よりも劣っていると言うの………っ!!?」
「お…おい!止めないか……」
そう言えば、忘れていた。
この人は怒り出すと周りが見えなくなる…と言う事を。
怒り叫ぶ皇妃様に、再び周りには人が集まり始める。
皇帝はそんな状況にかなり焦った様子だが、一度頭に血が上った皇妃様は止まらない。
私をキツく睨みつけると、帝国にいた時の様に怒鳴り散らす。
「卑しい血を引いた子がいきなり他国の王妃だなんて……良い気になるんじゃないわよ!!あんたは今まで通り…周りの目を伺いながら怯えていればいいのよ!!」
その声は会場中に響き渡る。
「皇妃……っ!もう、何も言うな…!!」
何とかして必死にその口を止めようとするが、今の皇妃は皇帝の言葉すら届かない。
最初は『良い気味』なんて思っていたが、ここまで来ると可哀想に思える。
私を侮辱する言葉を怒りのまま口に出す皇妃。
皇帝すら止められなかったそれを止めたのは、隣に立つ王様だった。
「……口を慎め」
その場に静電気の様なピリッとしたものが走る。
正気を取り戻した皇妃は、先程自分が発した言葉を思い出して顔を青ざめさせる。
「…………あ、わたくしは今……っ!!」
驚く程に冷たい王様の目は、噂で聞いた"冷酷"と言う言葉が良く似合う。
口調も瞳も冷たくて、凍ってしまいそうだ。
「……おう…さま?」
「心配するな。少し己の立場とやらを理解させるだけだ」
膝から床に崩れ落ちた皇妃は、辛うじて腕でその体を支えている。
「余の隣に立つのはアデリカル王国第一王妃であるが、そなたは…何だ?言ってみよ」
「わ…………わたくしは……わたくしは………っ。スレンスト帝国第五皇妃でございます…」
「帝国では、身分が下の者が上の者に無礼な口を聞くのが主流なのか……?それともこの者の礼儀がなっていないのか?」
「い、いえ……っ!!帝国は決してその様な国ではこざいません!!!」
「……では、この妃の礼儀がなっていないだけか」
「ど、どうかお許し下さいませ………っ!!」
先程の言動で国の評価だけで無く自分の評価も下がったのだと自覚した皇妃は、頭を下げて必死に許しを乞う。