冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
(……まさか、さっきの飲み物に毒が?こんなに警備が厳しくなっていると言うのに、一体誰がどうやって……)
朦朧とする意識の中、必死に思考を巡らす。
今日参加して頂いたご令嬢達は事前に許可書を発行し、入城する際には門にて持ち物検査を受けて頂いた。
通過する事が出来ているという事は、何も問題がなかったと言う事になる。
(…じゃあ、誰が?)
喉元を押さえたまま顔を上げると、ある人と偶然目があった。
(……まさか)
その人は眉を下げ怯える表情を見せながらも、口元は薄っすらと笑っている。
信じたくないけれど、この人だと言うのだろうか。
(そんな……っ…)
絶望感が私を襲う。
「お妃様……っ!!」
クランベルの叫び声が、何だか遠い。
視界もぼやけ、殆ど周りが見えない。
(私は死ぬの……?)
死にかけた事はこれまでにあったけれど、流石に今回ばかりは死を感じる。
もし、仮にこのまま死んでしまったら。
最悪な思考が頭の中に浮かぶ。
死んでしまったら、王様に会う事は出来ない。
クランベルにも、親切にしてもらった他の人達とも会えなくなる。
(嫌だ……死にたくない……っ)
王様に、皆に会いたい。
こんな別れは嫌だ。
どんなに願っても、私の意志とは関係なく瞼はゆっくりと閉じていく。
「…………っ…!……ま……っ!」
何か遠くで聞こえるけど、良く聞き取れない。
もう……終わりなんだ。
やっと、居場所を見つけたのに。
(嫌だ……っ!)
『……様…っ!!』
(……何?)
頭の中から響いてくる謎の声。
『俺を置いて……いかないで下さい……っ!!』
(……誰?)
悲痛な出来事に、泣き叫ぶ様な男性の声。
『お願いです……。どうか、目を覚まして下さい……っ!!』
誰だか思い出せない。
けれど、この声が何だかとても懐かしく思うのは何でだろうか――――――……。