冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
女としての幸せも、ジェットを好きだと思っていたこの想いも。
私は全て捨てて、最後まで戦場を選んだ。
(最後…まで……?)
可笑しい。私はこうして生きている。
けれど、何故か今の現状に違和感を感じる。
私はリティだが、違う。
(私は………)
馬を走らせ戦場に戻ろうとした時、周りの風景が一変した。
誰もいない静かな部屋。
押し寄せる孤独感。
「お父様……お母様……っ」
静かな空間に解けて消える、悲痛な泣き声。
「何で…来てくれないの?何で優しくしてくれないの?」
独りぼっち。
周りが私を無視してあざ笑う。
「怖いよ……寂しいよ……っ」
独りぼっちは怖い。
けれど、慣れてしまうと何も感じなくなる。
今日もいない。
そんな感覚に変わる。
けれど、これもまた違う。
私の居場所はここじゃない。
(私の居場所は……)
『……様…』
『お妃様……っ』
誰かの悲しい声。
『目を覚まして下さい……いつまで寝ているのですか?』
誰か分からない。
聞いた事のある声なのに。
『皆……待っているのですよ。わたくしも…王様も…』
そこには誰もいないのに、声だけが聞こえて来る。
「誰……?」
問いかけても返答はない。
ただ、女の人の声がするだけだ。
『目を…覚ましてください…』
(誰だっけ…。私の側でいつもいてくれた人物のはずなのに。顔と名前が思い出せない)
『お妃様…っ』
その声は次第に大きさを増す。
鮮明にはっきりと。
その声は聞こえて来る。
(お妃様……?)
誰か忘れてる。
とても大事な人達の事を。
忘れてはいなけない何か…を。