冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
「前と同じ待遇を受ける事も出来ませんし、なりより可笑しな行動を取らない様に常に監視もついておりますから、やっと…安心出来ますね」
「……安心」
その言葉に両手を見つめる。
豆一つ付いていない綺麗な手。
黒く染みついた血も、切られた傷跡も。
そこには何一つない。
私を亡き者にしようと企む人はもういない。
いつ命を落とすかも分からない恐怖に怯える必要もない。
(本当の……安心)
あの日、私が一度捨てたモノ。
(幸せな生活を…やっと送れる……の?)
何だかその言葉に実感が湧かない。
戦争の無い今のアデリカル王国。
昔とは違って他国との同盟を強化された今の王国に、戦いを挑むような国は正直言っていないだろう。
剣を握り、戦場を駆け回る事も。
血に染まる事も。
特別な力に悩む事も、もうない。
私は力のないただの人間。
聖女などと言う言葉に縛られる事も無い。
(やっと、平和な生活を送る事が出来るんだ…!)
そう思うと、何だか急に嬉しくなった。