冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
この先、戦争の無い平和が生活が続く。
明るい光景を想像する中、侍女の一人がクランベルに手紙らしきものを手渡すのが見えた。
「クランベルさん。これ…」
「これは……」
それを受け取ったクランベルは、封蝋(ふうろう)に描かれた模様に一瞬眉間にシワを寄せた。
「どうしたの?」
クランベルはその手紙から目を離すと、何だか悩むように私の方へ視線を向けた。
「お妃様宛てで…ございます」
「え、私?」
それを受け取った私は、封蝋を確認する。
「これって……」
私はその封蝋の模様が何なのかを理解すると同時に、思わず怪訝な表情を見せた。
あり得ない。
この人が私に宛てて手紙を書くなんて、これまで一度も無かった。
(…………何で、お父様から…っ)
その封蝋は、スレンスト帝国の象徴と称えられる蛇が描かれた紋章。
「………お妃様」
クランベルは心配そうな表情でこちらを見つめる。
「……読んでみる」
封筒の中から一枚の紙と取り出すと、目の前で広げる。
そこには淡々とした言葉が綴られていた。
『そちらでの生活に苦労していないだろうか。以前のパーティーでは失礼な事をしたようで、この場でお詫びする。今度、こちらへ戻り姿を見せると良い。帝国の皆もお前に会いたがっている』
(嘘くさい……。いや、嘘だ)
そんなはずがない。
放置され続けた挙句に、追い出そうとしたお父様が。
私を見下し、世話さえもしてくれなかった侍女達が。
私の帰りを待っているはずがない。
例え待っていても、帰る気は更々ない。