冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】







この先、戦争の無い平和が生活が続く。


明るい光景を想像する中、侍女の一人がクランベルに手紙らしきものを手渡すのが見えた。


「クランベルさん。これ…」

「これは……」


それを受け取ったクランベルは、封蝋(ふうろう)に描かれた模様に一瞬眉間にシワを寄せた。

「どうしたの?」

クランベルはその手紙から目を離すと、何だか悩むように私の方へ視線を向けた。


「お妃様宛てで…ございます」


「え、私?」


それを受け取った私は、封蝋を確認する。


「これって……」


私はその封蝋の模様が何なのかを理解すると同時に、思わず怪訝な表情を見せた。


あり得ない。


この人が私に宛てて手紙を書くなんて、これまで一度も無かった。


(…………何で、お父様から…っ)


その封蝋は、スレンスト帝国の象徴と称えられる蛇が描かれた紋章。


「………お妃様」


クランベルは心配そうな表情でこちらを見つめる。


「……読んでみる」


封筒の中から一枚の紙と取り出すと、目の前で広げる。


そこには淡々とした言葉が綴られていた。


『そちらでの生活に苦労していないだろうか。以前のパーティーでは失礼な事をしたようで、この場でお詫びする。今度、こちらへ戻り姿を見せると良い。帝国の皆もお前に会いたがっている』


(嘘くさい……。いや、嘘だ)


そんなはずがない。


放置され続けた挙句に、追い出そうとしたお父様が。


私を見下し、世話さえもしてくれなかった侍女達が。


私の帰りを待っているはずがない。


例え待っていても、帰る気は更々ない。




< 188 / 190 >

この作品をシェア

pagetop