冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
「お帰りなさいませ」
黒色のタキシードに身を包んだ白髪の男性が、深々とお辞儀をする。
事情を聞かされていないとは思えない程、その男性は落ち着いていた。
「そちらの方は…」
王様の横に立つ私へ、ゆっくりと視線を向ける。
その目は見た事のない私に対して、どこか警戒している風にも見える。
「…………大体予想がつきました」
何かを考える様な沈黙の後に、まるで全てを察したかの様な男性の重いため息が聞えた。
その姿はとても憂鬱そう。
気を取り直す様に咳払いをすると、その男性は再び私に視線を向けた。
「…先ずはご挨拶致します。わたくしはここの執事長を務めます、ルークス・モイラーと申します」
丁寧な自己紹介。
ルークスと名乗るその男性はどうやら執事らしい。
取りあえず、こちらも自己紹介をする。
「私は…スレンスト帝国二十八番目の皇女、ガーネル・リドゥ・スレンストです」
その名前を聞いた途端、眉間にシワが寄ったのを私は見逃さなかった。
嫌悪するかの様にその表情は険しい。
会ったばかりの私が一体何をしたのか。
そんな不満が心の中に浮かんだけれど、他国の皇族が王様と一緒にいれば、そんな表情にもなるのだろう。
「ルークス」
「はい」
「侍女長を執務室へ連れて来い。その後にレニアスを同じ場所へ呼べ」
「かしこまりました」
命令を受けるとルークスさんはお辞儀をして、早々その場から立ち去った。
「付いて来い」
ドラゴンを空へ放つと、王様は前へと歩き出した。