冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
(………………それにしても)
可笑しい事に、初対面であるはずのその女性に既視感(きしんかん)を感じた。
それだけではなく、その顔は懐かしさすら感じ、どこかで一度会った事があるのではないかと錯覚させられる。
「お初にお目に掛かります。わたくしは侍女長のクランベル・テラ・ロトフと申します」
丁寧にお辞儀をしたその女性の動作はとても優雅で、名前からして恐らく貴族なのだろう。
スレンスト帝国はもちろんの事、他国でも貴族以外の民が姓を持たない国は多い。
姓は貴族と平民を区別する役割があり、階級を表すものだから。
仮にこの女性が貴族だとすると、帝国で開かれるパーティーに参加する可能性だってあるだろう。
もしかすると、そこで一度目にしたのかもしれない。