冷徹竜王の花嫁Ⅰ【完】
胸騒ぎ
静まり返った執務室へ近づく、廊下の足音。
その音が静止すると、次に聞こえてきたのはドアをノックする音だった。
___コンコンコン。
「王様。出発の準備が整いました」
「………………」
「……王様?」
「…あぁ。出発しよう」
凝視していた手から目線を外すと、椅子から立ち上がり廊下へ向かう。
「王様、いかがなさいましたか?」
ルークスは心配そうな表情を見せる。
「…………大丈夫だろうか」
「王城でしたら、このルークスにお任せ下さいませ。主の不在中でも立派に守って見せます」
ルークスは自信満々に口を開いた。
(実に心配だ……)
不在中の王城に関しては、全く心配していない。
いつものように、ルークスが管理してくれると信じているから。
今回心配しているのは、あの者。
実力のある騎士を護衛に与えても、その不安は消える事がない。
「その他にも、何か心配事がございましたでしょうか?」
首を傾げるルークス。
王妃に関しての詳細を明かさなかった為か。
王城勤務の大臣を始めとする他の貴族達が、疑心と不満を近頃現している。
貴族派の中でも特に厄介だと考えるのは、公爵のシーザ・ヤン・ベルデーク。
大臣や権力のある重要貴族達と繋がりを持ち、敵に回すと面倒くさい人物。
一時は娘を王妃にと、公爵自ら申し出た事もある。
その時は断りの連絡をしたが、未だに娘を王妃にさせるつもりなのか。
公爵を中心とするその周辺で、思わしくない噂が流れているらしい。
『側室の妃でありながら、王のお手つきもない女』
『身分不詳の怪しい妃』
『卑しい身分故に、詳細を明かせないのではないか』
その噂は今でこそ貴族の間だけを流れているが。
その内、民の間でも噂される様な事になれば。
『新しい妃を』
最悪、そう口にする奴らの思考が現実になりかねない。